サルコペニアの発症メカニズムは未だ明らかではない。しかしながら、加齢動物では運動神経終末が筋線維から脱落する神経筋接合部の変性が報告されており、この現象がサルコペニアの発症に関与するのではないかと考えられている。神経の変性原因については明らかではないが、神経細胞の生存に関与する因子が、加齢動物では低下している可能性が考えられる。平成17年度では、加齢の影響は、速筋線維よりも遅筋線維に大きく現れ、少なくとも48週齢のマウスではサルコペニアが発症しているものと考えられた。さらに、骨格筋ではCNTFの受容体であるCNTFRαの発現が加齢に伴い顕著な減少傾向が認められ、脊髄ではNGF、BDNF、CNTF、CNTFRαに減少傾向が認められた。よって、脊髄側の神経栄養因子の発現低下は、運動神経細胞の生存及び神経筋接合部の変性に影響を与えている可能性が示唆された。平成18年度ではこの結果を踏まえ、加齢動物に習慣的な運動を行わせたときの筋細胞の大きさ及び骨格筋と脊髄の神経栄養因子の発現プロフィールに及ぼす影響について検討を行なった。44週齢のマウスを用いて、体重の10%に相当する錘を胸部に装着し、20秒間の水泳運動および10秒間の休息を1セットとする運動を1日当たり8-10セット行なわせ、このトレーニングを30日間行った。筋組織の形態的所見として、遅筋繊維の横断面積の減少傾向が軽減されただけでなく、筋線維の径小化や再生筋線維の出現数にも減少傾向が認められた。骨格筋において加齢に伴い顕著な減少傾向が認められたCNTFの受容体であるCNTFRαの発現レベルはその減少傾向が軽減されることが認められた。また、脊髄において加齢に伴い顕著な減少傾向が認められたNGF、BDNF、CNTF、CNTFRαの発現レベルはその減少傾向が軽減されることが認められた。
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