運動が健康増進に貢献する最も重要な作用の1つは、インスリンに対する筋肉の感受性を高める効果である。この効果は、単回運動の繰り返しによるインスリンシグナル分子に対する遺伝子発現、蛋白量の増加効果がインスリン抵抗性の改善を誘導するものと推測できるが、この仮説を証明する報告はない。そこで糖代謝調節を正に制御する因子について、運動トレーニングが及ぼす影響を検討した。運動トレーニングとして、7週齢雌ラットに流水式プールを用いて5日間(6時間/日)水泳させた。本流水式プールは、ラットが壁面の繋ぎ目に退避し休息する習性を排除できるようプールの全周囲の壁面をスムージング化した。これにより、以前のプールでは運動の継続が断続的であったのに対して、本プールでは長時間の継続的な運動を負荷することができた。また、コントロールラットとして同期間安静飼育した。各群の一部を用いて、運動終了16時間後にインスリンを負荷し、骨格筋を摘出し分析に供した。インスリン受容体(IR)、IRS-1結合PI3-k、IRS-1チロシンリン酸化、Akt(Thr308)、Akt(Ser473)の蛋白量とリン酸化を測定した。 結果、運動トレーニングにより、IRチロシンリン酸化は有意に増加した(170%増、p<0.05)。他のシグナル分子は運動トレーニングの影響を認めなかった。これにより運動トレーニングがシグナル作用を増強する機序として、IRチロシンリン酸化の関与が示唆された。運動終了16時間後の測定は、5日間のトレーニング効果を評価している。従って、この時点から運動直後迄遡って経時的に測定することで、運動特異的に影響するシグナル分子を同定できる。 初年度の成果として、流水式プールの改良およびシグナル分子に対するトレーニング効果を確認した。次年度は、運動トレーニングが遺伝子発現調節へ及ぼす影響および運動直後のシグナル分子の応答について検討することで、運動トレーニングがシグナル分子を正に制御する機序を解明する。
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