一過性の運動時に、脊髄において受容体と結合した神経栄養因子の増加と受容体のリン酸化が生じる。しかし、脊髄内には運動神経細胞だけではなく、他の細胞が多数存在しており、脊髄における受容体のリン酸化が運動神経細胞で生じているかどうかは明らかではない。また、脊髄内には支配筋の異なる運動神経細胞が点在しており、支配筋による影響も明らかではない。本研究では、特定の筋を支配する運動神経細胞を逆行性に同定することによって、運動による神経栄養因子のシグナル伝達経路を単一運動神経細胞レベルで詳細に検討するとともに、支配筋によってシグナル伝達に相違が認められるかどうかについて検討することを目的とする。 平成17年度の研究目的は、特定の筋を支配する運動神経細胞を同定し、それらの細胞における神経栄養因子の発現を確認することにあった。 6ヶ月齢のWistar系雌性ラットの左脚ヒラメ筋に逆行性神経標識物質であるNuclear Yellow(2%濃度)を15μl注入した。約24時間後に断頭屠殺し、脊髄を摘出後、クリオスタットを用いて厚さ15μmの凍結切片を作製した。奇数切片は蛍光顕微鏡によりヒラメ筋の運動神経細胞の同定に、偶数切片は脳由来神経栄養因子(BDNF)抗体を用いた免疫染色に使用した。 その結果、ヒラメ筋を支配するすべての運動神経細胞の細胞体に強いBDNFの染色反応が認められた。さらに、その染色反応を半定量化したところ、細胞体の大きさと染色濃度は負の相関関係を示す傾向にあったが、有意なものではなかった。 今後、この方法を用いて、さらに詳細な検討を実施する予定である。
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