本研究では、β_3アドレナリン受容体(AR)遺伝子変異を保有する小児と保有しない小児との間で、内臓脂肪面積、運動時の中性脂肪分解反応、体脂肪率、血清脂質性状の比較・検討を行い、β_3AR遺伝子変異の保有が小児における内臓脂肪型肥満の形成、運動時の脂質分解能の低下、全身体脂肪量の過剰蓄積、糖・脂質代謝の異常に関与するか否かを明らかにすることを目的とした。平成18年度に測定を行った15名を加え、7〜12歳の男女小児48名(平均年齢9.8±1.4歳)を対象に、β_3AR遺伝子、肥満度、体脂肪率、MRIによる内臓脂肪面積、血圧、血清脂質、動脈硬化指数、尿酸値、血糖値、インスリンなどを解析・検査した。 β_3AR遺伝子の変異型を保有する肥満小児は7名、正常型を保有する肥満小児は15名、変異型を保有する非肥満小児は4名、正常型を保有する非肥満小児は22名であった。肥満小児について変異型と正常型の間で検査項目を比較すると、正常型を保有する肥満小児に比べて、変異型をもつ肥満小児では肥満度や体脂肪率は同程度であるにもかかわらず、内臓脂肪面積が大きく、HDLコレステロールと尿酸値が顕著な不良状態を示した。また、非肥満小児についても変異型をもつ小児の方が、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪が顕著な不良状態を示した。 以上から、小児では肥満・非肥満にかかわらず、β_3AR遺伝子の変異型をもつ場合には、内臓脂肪量、血清脂質代謝、尿酸代謝などが不良状態に陥りやすい可能性が示唆された。 今後は、特に肥満小児に対する検査を増加させ、β_3AR遺伝子変異を保有する肥満小児の形態的特性、糖・脂質代謝性状、動脈硬化進展状態について、さらに詳細に分析・検討する予定である。また、データが蓄積されてきたことから、学会発表ならびに原著論文の執筆をこれまでより積極的に行う予定である。
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