本研究では、β_3アドレナリン受容体(AR)遺伝子変異を保有する小児と保有しない小児との間で、内臓脂肪面積、体脂肪率、血清脂質性状の比較・検討を行い、β_3AR遺伝子変異の保有が小児における内臓脂肪型肥満の形成、運動時の脂質分解能の低下、全身体脂肪量の過剰蓄積、糖・脂質代謝の異常に関与するか否かを明らかにすることを目的とした。平成17、18年度に測定を行った48名を加え、7〜12歳の男女小児66名(平均年齢9.8±1.4歳)を対象に、β_3AR遺伝子、肥満度、体脂肪率、MRIによる内臓脂肪面積、血圧、血清脂質、動脈硬化指数、尿酸値、血糖値、インスリンなどを解析・検査した。 β_3AR遺伝子の変異型を保有する肥満小児は13名、正常型を保有する肥満小児は21名、変異型を保有する非肥満小児は5名、正常型を保有する非肥満小児は27名であった。β_3AR遺伝子の変異型を保有する小児の割合は、非肥満小児(15.6%)に比べて肥満小児(38.2%)の方が顕著に高い割合を示した。肥満小児について変異型と正常型の間で検査項目を比較すると、正常型を保有する肥満小児に比べて、変異型をもつ肥満小児では肥満度、体脂肪率、内臓脂肪面積が顕著に大きく、HDLコレステロール、尿酸値、肝機能指標が顕著な不良状態を示した。以上から、β_3AR遺伝子の変異型を保有する小児では、体脂肪量、内臓脂肪量、血清脂質代謝、尿酸代謝などが不良状態に陥りやすい可能性が示唆された。 小児の段階で動脈硬化危険因子の根源である内臓脂肪の蓄積が遺伝的な影響を受けるという知見は、個々の小児が各自の体質を考慮して健康的な生活習慣を構築することに役立つものと考えられる。
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