本研究は、『金瓶梅』を中心とした小説類、および文学作品の挿図版画から、明清時代における家具使用の様相を総合的に理解し、また同時に家具や建築など住生活に関わる物質文化が挿図ではいかに描かれているかを明らかにすることで、挿図の画像を読み解く上での判断基準を獲得することを目的としている。 本年度は、『金瓶梅詞話』をはじめとする『金瓶梅』の主要各本から、家具とその使用方法および住生活に関連する記述を抽出して記述を比較検討し、また、その他文献史料にみえる住生活史に関する記述についても収集をおこなった。本研究では、生活全般についてより詳細に述べる『金瓶梅詞話』を中心に住生活関連部分を読み込むことにしているが、詞話本にはすでに日本語訳があるものの、家具や建築等についてはまだ十分な解説がなされていない。これらに関しては、住生活史研究の観点から、適切な訳文および解説を提供できるよう準備している。また挿図についても、『金瓶梅』挿図のほか、家具や住居が描かれたその他の挿図版画の収集・整理を継続中である。上記作業のために京都大学の各図書館、東京大学総合図書館、東洋文化研究所、国立公文書館、国会図書館等にて、『金瓶梅』各種版本および関連文献の調査、閲覧、複写をおこなった。 そのほか、『金瓶梅』の舞台は山東省であるが、挿図に描かれた生活は、舞台となった山東省よりもむしろ江南地方の風俗が反映されているように見うけられ、これは出版地に関わるものと考えられる。挿図に描かれた生活風俗理解のために、以前に実施した江蘇・浙江両省を中心とする実地調査を補完・比較検討することを目的として、今年度は福建省にて伝統的生活空間における家具の使用・配置、および生活文化に関する実地調査をおこなった。また国内でも九州国立博物館、家具の博物館、藤井有鄰館等にて明清家具をはじめとする生活文化史に関する調査をおこなった。
|