大気汚染の健康影響については、死亡や疾患との関連について多くの研究がなされてきた。今日、公衆衛生において「生活の質」(QOL)の重要性が認識されてきており、大気汚染による健康影響をQOLにより評価する必要があることが指摘されている。アウトカムとして健康関連QOLを用いることにより、死亡や罹患では見えなかった大気汚染の健康影響を顕在化させる可能性がある。そこで、2002年10月に実施されたSF-36(健康関連QOLの代表的指標)の日本国民標準値を調査した際のデータベース(全国から4500人を無作為抽出し、10月中に回答した2896名)に、全国の一般環境大気測定局(約1700地点)で記録された浮遊粒子状物質(SPM)、NOxおよび光化学オキシダント(Ox)濃度のデータ(2002年9月、10月、および、9-10月の平均値)を市区町村単位でリンケージさせ、SF-36の「活力」および「心の健康」ドメインの得点を目的変数、各大気汚染濃度を説明変数として共分散分析を行った(大気汚染濃度は対象者数を4グループに均等に分けられるようにカットポイントを決め、カテゴリ変数とした)。調整因子は、性別、年齢、世帯年収、呼吸器系疾患の有無、居住地地域、都市人口、気温および湿度とした。調整前の解析では、9月および9-10月2ヶ月平均のOxの高濃度曝露群では「活力」が低い傾向がみられた(それぞれP=0.043および0.028)。この関連は、諸因子で調整してもみられた(それぞれP=0.047および0.033)。一方、SPMあるいはNOxと「活力」との関連は見られなかった。未知の交絡因子の存在は否定できないが、Ox濃度と「活力」との関連が示唆された。今後、10月以外における季節における大気汚染物質とQOLの関連の検討等、更なる研究が必要である。
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