ドコサヘキサエン酸(DHA)は、過酸化脂質・フリーラジカルを生成しやすく、この関連物質は生体組織に種々の傷害を引き起こすことが知られている。しかし、DHAの摂取は従来から考えられているほどには過酸化脂質・フリーラジカルを生成せず組織傷害を与えない。我々は、この要因として抗酸化成分・酵素に加えて、解毒・排出機構の関与を推測した。DHA摂取に伴う過酸化脂質生成は肝臓において顕著である。肝臓における生体異物の解毒・排出は、P450酵素代謝、抱合体生成、膜輸送タンパク質による排出からなり、異物は膜輸送タンパク質により振り分けられ血中および胆汁中に排出される。しかし、DHA由来酸化物の解毒・排出に関する知見はほとんどない。本研究では、DHA摂取に伴い生成する組織過酸化脂質の解毒・排出機構について、多剤耐性関連タンパク質(MRPs:Multidrug Resistance-associated Proteins)の役割を中心に検討した。4週齢SD系オスラットを用いて、AIN-76組成に準じて調製した飼料を14日間自由摂取させた。飼料脂質(10wt%)は、リノール酸(LA)群のLAレベルを52.2g/100g lipid(11.3en%)、DHA群のLAレベルとDHAレベルをそれぞれ11.0g/100g lipid(2.4en%)、38.6g/100g lipid(8.4en%)とした。飼料中のビタミンE(VE)は68mg/kg dietに調製し、DHA-lowVE群のみ7.7mg/kg dietとした。その結果、肝臓の過酸化脂質(TBARS)レベルはLA群に比べDHA群で増加し、逆にVEレベルは低下した。一方、DHA-lowVE群の肝臓VEレベルはDHA群に比べて顕著に低下したのにもかかわらず、TBARSレベルはDHA-lowVE群とDHA群との間で差は認められなかった。このとき、MRP1とMRP3のタンパク質レベルおよびmRNAレベルについて、LA群に比べDHA群で、さらにDHA群に比べてDHA-lowVE群で、増加ないし増加傾向が認められた。従って、肝臓では様々な抗酸化成分・酵素等によってDHAの酸化は抑制されるが、一旦生成した傷害性の高い酸化物はMRPsを介した解毒・排出機構により処理されることが推測された。
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