今年度は、本研究の初年度として、CAS等のグラフ描画ソフトを利用した認知的な働きのメカニズムを同定するための理論枠組みを整理し、理論分析を進めることを目的とした。本研究の理論枠組みとして、Brousseauによる教授学的状況理論とBalacheffによるコンセプションモデルを採用することにした。前者は認知的な活動が状況・場面によって特徴付けられるものと考え、後者は、教授学的状況理論に基づき、学習者の知識状態を学習の観点から記述するものである。これらの理論を用いて、まず関数グラフソフトGRAPESを利用した場合に、これまで日本で扱われてきた学習課題において学習者の認知的活動をいかに促すか分析した。状況を考慮した分析により、探究の授業が導入の部分においては、学習の焦点があいまいになってしまうことが示唆された。具体的には、教授学的契約の断絶が起きてしまう可能性がある。一方、授業の導入後に提起される課題においては、学習者が自らの問題として扱う可能性が示唆された。教授学的状況理論の言葉を用いれば、devolutionを起こしやすい。これらの分析結果を現在まとめている。また、これらの理論分析と同時にGRAPESを用いた予備実験を進めている。 この他、「数学におけるテクノロジー国際会議(ATCM)」では、数学教育におけるテクノロジー利用に関し、日本の場合を共同で発表し、宮川健がGRAPESを担当した。
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