本研究は金型設計技術形成の展開と知的所有権問題をテーマとしているが、17年度は、この課題の具体的分析を行うにあたっての前提として、中国金型メーカーと日系ユーザーとの具体的な取引関係、すなわち日系ユーザーが中国金型メーカーをどのように利用しているかを調査した。調査地域としては、中国開発区の中で日系企業が一番多く進出している長江デルタ地域の蘇州高新区開発区の金型メーカーと日系ユーザーの実態調査を9月と1月に行った。この調査目的は、日系ユーザーの製品毎の金型メーカー利用実態を具体的に把握することにより、中国金型メーカーがどの程度の製品の金型の受注が可能であるのかを把握することであり、中国の金型メーカーの技術水準を相対化することにある。すなわち、金型設計技術の評価する際の、評価基軸を設定することにある。この調査で得られた知見は以下の4点である。第一に、中国金型メーカーで日系企業の要求水準応えられる企業は、旧国有系の企業および国有系企業からスピンアウトして独立創業した企業である。第二に、これらの企業は中国国内において相対的に高い技術を有してきてはいたが、その水準は日系ユーザーの要求水準に応えられるものではなかった。しかし、第三に、日系ユーザーと長期的に取引を行うことにより、徐々にその要求水準を満たすようになってきている。逆に言えば、日系企業がこれらの企業を育成するという観点から長期取引をし、技術水準を上げてきた結果である。設計技術形成過程という観点から見ると、第四に日系ユーザーが技術者を派遣して、金型設計を日本的なやり方で指導している。しかし、これらの企業の扱う製品は、低・中級品の消費財分野であり、相当のテクニカルギャップがまだ存在している。品質の高い製品を扱う場合には、技術移転の際に知的所有権問題が内在化している。
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