本年度は、これまで調査のフィールドとしている中国の蘇州地域におけるシンガポール工業園区に進出している自動車部品メーカーおよび自動車部品メーカーに金型を供給している日系の金型メーカーおよびローカル金型メーカーに調査・ヒアリングを行った。中心的な論点は自動車部品メーカーが金型メーカーに型を発注する際に、日系金型メーカーとローカル金型メーカーとで意匠に関する知的所有権に関わってどういった違いが生じるかを実証的に明らかにすることである。ここで得られた知見は以下の4点である。 第一に、自動車産業は依然として日本においては基幹産業の一つであり、自動車部品の品質・精度は中国で生産するにおいても、日本で生産していた際と同等の品質・精度を要求されるということである。よって、設計段階においては基本的に自社内で設計するか、外部に出す場合にも、設計センターを同地に設立し、そこで基本設計を行っている。 第二に、型の外注に関しても、意匠設計が入ってくるので、基本的には市場に出る前の機密性が高く、基本的に型の発注は現地の日系企業に発注するというケースが圧倒的である。 第三に、品質を維持するためには型の材料および成形材料および機械設備に関しても日本製のもので対応する必要があり、日系の専門商社を通して調達している場合が多い。 しかし、第四に、コストを下げる必要があることから、外注する金型メーカーは従来の金型メーカーとは異なり、現地で新たに取引を開始した日系メーカーであることが多い。これは、ローカル金型メーカーを二次下請として管理できている金型メーカーであり、従来の品質を維持した形でコストを下げることに成功している。このように、中国市場において新たな企業グループを形成しつつ従来の品質を維持しつつコストを下げる形で日本の基幹産業は中国市場で生産活動を展開していることが明らかになった。(782文字)
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