本研究で製作したシステムでは、12V、144W、色温度1000〜1050Kの炭素棒から放射された赤外線を、75線/mm回折格子型分光器によって単色化(半値幅0.58〜0.83ミクロン、スポットの大きさ縦15mm、横2.5mm)し、試料に照射した。試料を透過した赤外線の像は、マイクロボロメータ型赤外線カメラ(アビオニクス社製サーモグラフィーTVS-200)で撮影した。 高分子ポリマー上に透明ニスで8ミリ×12ミリの文字「x」を書き、ポリマーの反対側の面を赤インクで塗りつぶし、赤インク側から可視光や近赤外光(波長1ミクロン)でニスの文字を判読できないようにした。 3つの実験を行った。最初に、試料なしで分光器の透過波長を変化させながら、カメラに入射する光量をプロットしたところ、カメラは波長6.8ミクロンから12.8ミクロンまでの赤外線を感知することがわかった。次に、分光器とカメラの間に試料を置き、分光器の透過波長を変化させながら、試料を透過してくる光量をプロットした。また、別途市販のFTIR装置を用いて試料の赤外透過スペクトルを測定した。両者の結果が良好に一致したので、本システムで、試料の赤外透過率像を撮影できていることが明らかになった。最後に、単色赤外線で試料の赤外透過率像を撮影したところ、可視光や近赤外光では撮影できなかったニスの文字「x」が、明瞭に撮影できた。撮影する波長さえ決まれば、撮影に要する時間は1秒以下であった。また赤外線による試料の温度上昇はほとんどなかった。 文化財科学や科学捜査において本システムをより有効に利用するためには、光源のスポットをより大きくし、なおかつ紙などから反射及び散乱してきた赤外光を観察できるようにするのが望ましいが、そのためには光源の強度、分光器のスループット、カメラの感度のいずれかを高くする必要があることがわかった。
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