研究概要 |
社会における地形実体視の活用の拡大,地形に関するコミュニケーションの促進に貢献することを目指して,同時に複数の人が実体像を見ることができ,それを通して地形の立体的な理解・認識を共有していくための手段としての実体視の手法について,以下の研究を行った。 1.実体視の技法に関する比較検討 裸眼実体視および実体鏡のほか,アナグリフ,レンチキュラー,3D対応液晶モニター等について情報を収集し,実際に試用して比較検討した。その結果,同時に複数の人が実体像を見ることへの対応,必要となる物品,画像作成の容易さなどの面で,アナグリフが最適であると判断できた。その一方で,色彩の再現性のほか,色覚バリアフリーへの対応など,アナグリフを利用する際の課題も明らかになった。 2.地形実体視のコンテンツの作成 地形学に関する書籍,中学校・高校の地理や地学の教科書などを参考にしながら,国内外の典型的な地形について空中写真やDEMデータからアナグリフ画像を作成した。これらの画像は地理学習用の教材としてインターネットを通じて一般に公開した。 3.地形実体像を組み込んだ地理教育教材の開発 岐阜県養老町(扇状地)および本巣市(根尾谷断層)を事例として,教材化のための現地調査を実施した。空中写真のアナグリフで地域全体をマクロな視点でとらえるとともに,人間が直接目にする事物や景観というミクロな視点も取り入れることが,地域の理解を深めるうえで非常に有効であることが,アナグリフ画像を持参しての現地調査によって予測できた。 4.授業実践を交えた検証 作成した地形のアナグリフ画像を勤務校の地理の授業に導入した。実体視が地形の学習に効果的であることのほか,実際の地域を箱庭感覚で実体視することができる面白さが学習への動機付けに有効であること,長時間見続けると目が疲れることへの配慮の必要性などが明らかになった。
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