研究概要 |
近年,間伐が遅れ,放置された人工林が増加しており,水涵養機能の低下や土壌流出等の問題で,人工林の荒廃が指摘されている.衛星リモートセンシングが捉えるのは樹冠であるため,森林の荒廃状態を,樹冠を通して推定する必要がある.一方,提案された植物の葉の水分状態を推定する指標は日本の多雨地域における荒廃した人工林を抽出できるかを検討する必要がある.そこで,本研究では,人工林の荒廃度と土壌含水率および葉の含水率の関係を明らかにすること,また,リモートセンシングからヒノキの葉の含水率を推定する可能性を検討すること,最後に,衛星データを用いた荒廃人工林の抽出を試み,その有効性を評価することを目的とした. 現地調査による林内環境の解析を基に,相対照度と下草による被覆率の関係から人工林の荒廃度を評価した.人工林荒廃度別に土壌含水率を分類化した結果,人工林の荒廃度が増加するにつれて,土壌含水率が低下することが明らかになった.次に,POT実験において,土壌含水率の低下による葉の含水率の変化を観測した結果,土壌含水率が低下するにつれ,ヒノキの葉の含水率が連動して低下することが明らかになった(r=0.80).ヒノキの葉の含水率の低下によって分光反射特性も変化し,葉の含水率と葉の水分状態を推定する植生指標には,良好な相関性がみられた.特に,Ratio Water Index(RWI)がヒノキの葉の含水率の推定に対して,最も有意な相関を示した(r=0.86).RWIを用いて,Aster衛星データから,荒廃した人工林の抽出を試みた.その結果,荒廃した人工林の割合は,大正町では52%,葛篭川流域では43%と判定された.現地調査地点を利用して精度評価を行った結果,この荒廃度マップの分類精度は63%であった.今後,斜面特性や樹冠温度の考慮,現地調査による荒廃度分類の閾値の検討を行うことによって,人工林荒廃状況の評価がより正確に行えるようになると考える.
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