急速に経済発展が進む中国をはじめとした東アジア、東南アジア諸国から排出される大気汚染物質が日本を含む東アジア地域のみならず、北半球全域にわたって対流圏の大気組成を変えており、その生態系や気候変動への影響が無視し得ない状況となっている。 本研究では、これら影響の定量的な評価に不可欠な三次元大気化学輸送モデルとその主たる入力情報である排出量インベントリーの精緻化を進めるために、大気化学輸送モデルと結合したインバースモデルによる排出源分布の推定手法の開発を構築している。本年度の研究では、2004年1月〜12月までの一年間の東アジアスケールでの大気汚染物質の輸送・反応・沈着シミュレーションを実施して、その計算結果を常時観測点での連続データと比較して、モデルのパフォーマンスを評価する手法を構築した。比較は生態系への影響が懸念されているオゾンを中心に行った。複数の観測地点のデータと比較することで、地点毎の再現性の違いや、モデルパフォーマンスの季節変化などを捉える事ができた。 次に、バックトラジェクトリーによるインバース解析によって、それらのパフォーマンスの違いの原因を検討した。関東地方の観測点のデータを用いた比較では、冬季に中国北部を通過してきた気塊に大きな誤差がみられ、汚染物質の過小評価がその原因のひとつであると考えられた。 さらに一酸化炭素についても同様の比較を行い、同様の結果を得たことから、これらの原因が燃焼起源の汚染物質である可能性が高いと推定された。
|