様々な場所で海水中の各種プロテアーゼのポテンシャル活性を測定した結果、複数のアミノペプチダーゼ、トリプシン型酵素、キモトリプシン型酵素の活性があることが明らかになった。表層海水では、特にトリプシン型酵素の活性が高い場合が多かった。アミノペプチダーゼはペプチド鎖の末端のペプチド結合に作用するエキソペプチダーゼであるが、トリプシン、キモトリプシンは、分子内部にあるペプチド結合を切断するエンドペプチダーゼである。これまで、海水中のタンパク質分解活性の測定にはロイシンアミノペプチダーゼ用の基質が用いられることがほとんどで、エンドペプチダーゼに関する情報は極めて少なかった。本研究により、表層海水中にはエキソペプチダーゼとエンドペプチダーゼの両方が、年間を通して普遍的に存在していることが見出された。また、サイズ分画濾過した海水を用いて、それぞれの酵素の活性に対する各サイズ画分の寄与を評価したところ、ロイシンアミノペプチダーゼ活性は細菌細胞を含む画分の寄与が大きく、トリプシン型酵素・キモトリプシン型酵素は溶存態画分の寄与が大きいことがわかった。 さらに、海水から分離した細菌株をオートクレーブ海水に再懸濁して培養し、培養系内のタンパク質分解酵素の活性を測定した結果、細菌の種類により産生する酵素が異なることが示唆された。また、それぞれの酵素活性に対する各サイズ画分の寄与を評価したところ、天然海水で得られた結果と同様に、トリプシン型酵素・キモトリプシン型酵素の活性は溶存態画分の寄与が大きい傾向が見られた。このことから、上述した海水の溶存態画会で得られる酵素活性の起源のひとつは細菌からの直接放出であると考えられる。 これらの結果は、海水中の細菌群集が、海水中に放出したエンドペプチダーゼと細胞表面のエキソペプチダーゼの両方を用いて、高分子溶存有機物を効率よく分解・利用している可能性を示唆している。
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