本研究では、自然再生事業が実施されている石岡市石川地区湖岸において、ユスリカ幼虫に着目し、水草帯、消波堤の有無、囲いの有無、人工池などによる複数の地点を設け、環境の違いによるユスリカ群集組成、現存量、多様度の違いを明らかにすることを目的とした。さらに、沈水植物に類似した人工水草移植実験を実施し、本来の健全な湖岸植生帯が再生され、沈水植物が再生した場合のユスリカ群集の応答について検証した。 消波堤設置地区をC地区、設置されていない地区をD地区とした。C地区のコの字型の囲いが設置されている地点の湖岸から沖側に向かってヨシ帯、囲い内部、囲いが設置されていない地点に、D地区には、湖岸と人工池にそれぞれ定点を設けた。人工水草移植実験は1週〜3週のサイクルで実施し、C地区の囲いが設置されている地点とされていない地点、D地区、人工池に計4定点を設けた。 その結果、消波堤および囲いの有無によって、底生ユスリカ幼虫密度に違いがみられた。C地区の囲い内部では、底生ユスリカ幼虫の個体数・現存量・多様度はともに高い値を示し、ハモンユスリカ属が優占した。囲い外側では内部よりも含砂率が高く、オオミドリユスリカの割合が高かった。水草帯ではハイイロユスリカが優占した。D地区では個体数・現存量ともに低い値を示した。溶存酸素量が最も低かった人工池ではヒシモンユスリカが優占した。 人工水草実験の結果、1〜3週という短い設置期間にも関わらず、ユスリカ幼虫が人工水草上に速やかに定着した。消波堤の設置されている地点と設置されていない地点との間で平均総個体数に違いがみられ、消波堤のないD地区で高い値を示した。人工池では湖岸の3定点より極めて低かった。湖岸3地点ではツヤユスリカが優占し、人工池ではツヤユスリカとヒシモンユスリカが優占した。ヒシモンユスリカは幼虫の成長段階によって生活様式の場が水草上から堆積物に移動し、付着性から底生性に生活様式が変化することが明らかになった。
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