本研究では、アフリカ・西アジアを中心とした乾燥地において育まれてきた伝統的な牧畜システムを対象として、砂漠化対処策定の際に基礎となるデータの収集と解析を行うことにより、それらの結果を地域の特性に適した現地活動として発展的に応用するための具体策を構築することを目的としている。 これまで長期にわたる現地調査結果をもとづき考察を行ってきたスーダンの紅海沿岸域の事例から導かれた特質を基本的分析枠組みとし、アフリカ・西アジアの諸社会との比較を行ってきた。昨年度までの資料解析をもとに、サウディ・アラビア西南部アシール山地ビャクシン林における生計経済と野生動植物の利用、自然保護区と地域住民のかかわり、牧畜をめぐる地域住民と中央政府との軋轢の具体的な様態に関する研究成果を発表し、生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用による生態系管理に向けた課題を提示した。 本年度は対象地域をさらに広げ、中国・黄土高原の土地利用との比較分析を行った。 中国における砂漠化対処を目的とした政策のひとつである「退耕還林」について、リモートセンシングを用いて生態効果の検証を行うとともに、伝統的な土地利用変化の実態とそのメカニズムを明らかにし、当該地域における環境変化を人間活動に焦点をあてて実証的に解明することを目指した。それらの研究成果をもとに、黄土高原の暮らしと砂漠化・砂漠化対処の歴史の関係性について考察した。 砂漠化対処を目指した「退耕還林」政策の評価法として、ミクロな土地利用変化の分析による新しい方法論的な視点を提供した。
|