2003年〜2005年に琵琶湖に流入する10〜20河川下流部で既に採集されていた生物試料の食性解析と窒素・炭素安定同位体分析を完了した。既にデータ解析が完了している2003年夏採集の生物群集の同位体比と、2004年夏のトウヨシノボリ(ハゼ科の底生魚類)の食性から、次のことが分かった。河川が富栄養化(電気伝導度の上昇などで示される)すると、過去の研究例と同様に生産者である付着藻類の窒素同位体比は上昇する傾向を示すが、2次消費者の窒素同位体比は同様の上昇傾向を示さず、両者の窒素同位体比の差分によって推定される両者間の食物連鎖単位長は短くなることが示唆された。トウヨシノボリの食性は、富栄養化がある段階を超えると急激に藻類食化する傾向が見られた。2つの結果は、本研究が仮定する富栄養化による食物連鎖長の短縮を支持する。同位体比と食性の変化の様子に違いが見られる(同位体比は徐々に、食性は急激に変化する)のは、両者が反映する時間スケールの違いに依存すると考えられる。現在データ解析が進んでいる2004年冬、2005年春の食性解析の結果は、中程度に富栄養化した河川でトウヨシノボリが夏よりも強い肉食性を持つことを示しており、2つの結果を結びつける証拠になるものとして興味深い。 2005年12月からは、新規に計画した生物試料の採集を開始した。これは上記の情報に、遊泳魚の食性に見られる反応、1次消費者の群集レベルの反応、2〜3次消費者の群集レベルの反応を追加するためのものである。オイカワ(コイ科の遊泳魚)の食性は、貧栄養の河川で水生昆虫食、中栄養の河川で藻類食、富栄養の河川で陸生昆虫食を示す傾向が見えつつあり、河川生態系全体を理解する上でとりわけ興味深い発見である。
|