本年度は、前年度12月、本年度4、6、9月に、7〜9の琵琶湖流入河川下流部で採集された生物試料を用いて詳細な解析(安定同位体分析、胃内容分析、群集解析)を開始した。とりわけ、栄養塩濃度増加に対して、付着藻類の生産、底生動物の群集レベルの反応、遊泳魚の食性がどう反応するかを把握することを目的とした。 付着藻類は、栄養塩濃度の高い河川ではδ^<15>Nが高くなる一方、δ^<13>Cは低くなる傾向を示した。高いδ^<15>Nは河川にδ^<15>Nの高い生活排水および農業廃水が流入して生産者に取り込まれていることを示しており、生産者のδ^<15>Nが富栄養化の指標になりうることを支持する。一方、δ^<13>Cは生産性が高まると局所的炭酸律速のために高い値を示すことから、本調査で取り扱った河川は、栄養塩が増加するに従って内部基礎生産が不活性化するレンジに位置づけられる。これは、富栄養化とともに濁度も上がり、河床の付着藻類が光律速になったためではないかと考えらる。 水生昆虫は、栄養塩濃度による全種数や全個体数の違いは顕著でなかったが、種組成が異なることが確認された。カワゲラ目、カゲロウ目は栄養塩濃度の高い河川で少なく、貝類は多い傾向が見られた。同位体分析からは、栄養塩濃度が高いことで群集組成が変化しても、群集全体として食物網上の位置づけが顕著に変化することはなかった。ただし、栄養塩濃度が著しく高い河川では付着藻類のδ^<13>Cが高いために、外部生産者(落葉等)の同位体比と近似し、食物網解析の解像度が落ちる結果となった。 遊泳魚オイカワの食性は、栄養塩濃度によって変化する河川内部の餌生物の組成に応じて変化することが胃内容分析から示唆された。底生魚トウヨシノボリよりも外部由来の餌(陸生昆虫など)に依存する傾向があり、栄養塩濃度の高い河川では栄養起源を特定できない同位体比を示す場合も見られた。遊泳性食物連鎖は底性食物連鎖と異なる反応パターンを持つようである。
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