本研究の目的は、CDMプロジェクトの活用を妨げる要因としてホスト国における不確実性問題や取引費用の問題を取り上げ、ホスト国の観点からCDMの利用を促すための制度設計を構築することであった。具体的には、第1に、ホスト国の持続可能な発展に寄与することの客観的かつ検証可能な指標を構築することであり、第2に、CDMプロジェクト実施においてホスト国との交渉で発生しうる取引費用を安くできるような制度設計を構築することであった。 1年目の2005年度は、日本と韓国で実際に行われた「ウルサン化学HFC23熱分解事業」を調査することにより、ホスト国である韓国の持続可能な発展にどのような貢献をしたか、またプロジェクトの実施に伴って発生する取引費用に関するデータが得られた。 2年目の2006年度は、CDMプロジェクトの活用によりホスト国である発展途上国の持続可能な発展を促すための方法として、CDMプロジェクトの評価枠組みが必要であることを明らかにした。具体的な評価枠組みとしては、既存の社会的費用便益分析の枠組みを拡張し、所得分配や地域格差問題などを考慮できるような評価枠組みを提案した。特に、中国でCDMプロジェクトを実施する場合は、中国国内の深刻な問題の一つである地域格差問題を考慮して立地選定を行う必要があることを明らかにした。すなわち、同一のCDMプロジェクトであっても実施される立地によって中国の持続可能な発展への貢献度が異なる。 最終年度の2007度度は、CDMプロジェクト実施において発生する取引費用やリスクを緩和するための方法としては、国家、自治体、NGOなどさまざまなレベルにおいて協力関係を構築することが重要であることを明らかにし、新たなガバナンス構築に関する論点を提示しながらそのあり方を模索した。そのため、日韓環境共同体という側面から、地球温暖化防止のための協力関係の構築の可能性を考察した。以上のような研究成果により本研究の当初の目的であった持続可能な発展を評価する枠組みおよびCDMプロジェクトのリスクや取引費用問題への対応に関してある程度の成果を挙げたことになる。
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