海洋環境汚染物質として有機スズに着目した。有機スズ(TBT)は船底の生物の付着を防ぎ船舶の燃費改善を目的に船底塗料として近年使用されてきた。しかし環境ホルモン様作用があることが明らかになって現在日本では使用が禁止されている。しかし近隣諸国ではいまだに使用されているため日本近海の汚染は依然として深刻である。健全な海域環境を維持することは海洋に囲まれた日本においては非常に重要な事項である。そこで生物の遺伝子発現プロファイルを確認することで海洋の有機スズ汚染をモニタリングすることを模索した。 海産動物ホヤ類は脊策動物に分類され、無脊椎動物から脊椎動物への進化の過程上に存在する生物と考えられている。それゆえホヤの研究を通して脊椎動物における原始的かつ共通な生物学的システムの存在を明らかにできると予想される。また定着生物であることから遺伝子プロファイルにその海域の汚染状況を反映することが期待できる。現在、海産生物で大規模なマイクロアレイが開発されているのはカタユウレイボヤのみであることからカタユウレイボヤを用いた海洋汚染検出システムの構築を試みた。 まず、TBT被曝によりホヤの遺伝子発現がどのように変化するのかを調べることを目的に、カタユウレイボヤを2群に分け1群を100nM TBTにて24時間、もう1群をTBTの溶媒であるエタノールにて24時間被曝した。その後、両群のRNAを抽出しエタノール被曝群をコントロールとした2色法マイクロアレイにて遺伝子発現プロファイルの確認を行った。通算3回の実験で共通して発現が2倍以上もしくは0.5倍以下に変動した遺伝子に注目し遺伝子プロファイルの解析を行ったところ、TBT被曝により特異的に発現が亢進すると思われる遺伝子14個と抑制される遺伝子28個を確認した。
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