研究課題
骨髄移植の前処置として行われている放射線全身照射において、患者さんの多くは照射後に悪心・嘔吐などの消化器症状「放射線宿酔」を経験する。放射線宿酔は迷走神経終末のセロトニン5-HT_3受容体を介して発症すると考えられている。しかし、5-HT_3受容体遮断薬は嘔吐に対しては効果があるものの、悪心や倦怠感には未だ満足できる治療成績が得られていない。申請者は放射線宿酔の病態生理機構には(1)迷走神経求心路終末の5-HT_3受容体が嘔吐を発症するのに加え、(2)他の情報伝達機構が視床下部などの自律神経系機能を変化させて悪心や食欲不振、循環器系の変化などを発症するのではないかとの仮説を立て研究を行っている。そこで本年度はビデオ行動記録装置を使用して放射線照射後に現れるラットの放射線宿酔を計測しながら、購入したテレメトリーシステムを用いて、ラットの体温・心拍数など自律神経反応を継続的にモニターすることで、放射線宿酔発症時に自律神経反応がどのように変化するか検討した。その結果、放射線4Gyをラットの全身に照射すると、照射後より1時間程度の潜伏時間を経て放射線宿酔が認められたが、この時期に顕著な体温の低下ならびに心拍数の低下が認められた。放射線照射前に5-HT_3受容体遮断薬のグラニセトロンを投与した場合、放射線宿酔は有意に抑制されたが、体温ならびに心拍数低下には影響を及ぼさなかった。以上のことから、放射線宿酔発症時に現れる体温・心拍数など自律神経系症状はセロトニン神経系とは異なる経路で発症することが示唆された。グルタミン酸神経系は視床下部において様々な自律神経系の調節を行っているが、我々は放射線宿酔発症時にラット視床下部でグルタミン酸遊離が増加することを見出している。今後、今回得られた研究成果を応用して、放射線宿酔ならびに自律神経反応が脳内グルタミン酸神経系とどのように関わっている明らかにしたいと考えている。
すべて 2005
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Pharmacology, Biochemistry and Behavior 82(1)
ページ: 24-29