研究概要 |
文献調査をおこなうことによって、わが国で医薬品類のうち消費量が多く、尿中への未変化体排泄率の高い非ステロイド系抗炎症剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン、メフェナム酸、インドメタシン)及び降圧剤(アテノロール、プロプラノロール)、抗てんかん剤(カルバマゼピン)、脳循環改善薬(イフェンプロジル)8種類を選定した。それらについて、その河川底質やモデル土壌、天然有機物質(NOM)への収着、魚類、甲殻類、緑藻類の3種の水棲生物に対する急性毒性を調べた。その結果、NOMへの収着係数はアセトアミノフェン、メフェナム酸およびカルバマゼピンは750L/kgC以下と低かったのに対して、その他の5物質は3,000から60,000L/kg Cと比較的高く、疎水性の4環のPAHであるピレンと同程度のものもあった。土壌・底質についてはイフェンプロジルやプロプラノロールはピレンと同様に高かったものの、アセトアミノフェンやアテノロールはそれに比べて1オーダー低く天然女性ホルモン17β-エストラジオールと同程度であった。イブプロフェンやインドメタシン、メフェナム酸はさらに1から2オーダー低かった。このようなNOMや土壌・底質への収着特性は疎水性の指標であるオクタノール・水分配比では説明できない。特に収着係数が高かった物質は実験を行ったpH7ではアミンが正にチャージ、低かった物質は負にチャージしていることから、NOMや土壌・底質中が負にチャージしていることと合わせて疎水性結合以外のイオン結合の関与が大きいことが示唆される。また、NOMについてはベンゼン環部分のπ電子同士の相互作用も重要な要素と考えられる。一方、急性毒性試験の結果から、一部の物質で毒性値予測に用いられるECOSAR(生態学的構造活性相関)との間に差がみられたが、ほとんどは1オーダー以内の誤差か、実測値の方が毒性が弱かった。もっとも強い毒性がみられたのはプロプラノロールおよびメフェナム酸の2物質であり、逆にアテノロールの毒性は非常に弱かった。
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