我々は線虫の酸化還元遺伝子の変異が、環境ホルモンとして知られるビスフェノールAに対し高感受性を引き起こすことを見出した。本研究ではビスフェノールA高感受性を引き起こすメカニズムの解明を目的とする。酸化ストレスに対する感受性試験では、本変異体を高酸素濃度(90%酸素)下で飼育し、酸化ストレスに対する感受性を検討したところ、本変異体と野生型の感受性との間に有意な差はなく、本変異体の酸化ストレスに対して感受性は見られなかった。ビスフェノールAは活性酸素を発生させることが最近報告されたが、本変異体のビスフェノールA高感受性は、ビスフェノールAにより引き起こされる酸化ストレスによるものではないことが示唆された。次に、我々はビスフェノールAに高感受性を示す変異体としてコラーゲン変異体を報告しているが、本変異体とコラーゲン変異体の二重変異体を作製し、その二重変異体のビスフェノールAに対する感受性を検討したところ、感受性が高まることはなかったが、二重変異体は形態学的に明らかに変化のある表現型を示した。さらに本遺伝子の組換えタンパクを作製し、インスリン還元活性を測定したところ、ジスルフィド結合を切断する還元活性が観察され、同様結果がヒトホモログでも報告されており、さらにコラーゲンの合成・修飾の場である小胞体に局在することが報告された。本変異体はコラーゲン変異体と同等の感受性を示し、その二重変異体の感受性は変化がないことから、本遺伝子産物はコラーゲンの修飾に関する酵素であることが示唆され、本酸化還元遺伝子変異によるビスフェノールA高感受性は、本遺伝子変異が引き起こすコラーゲン合成もしくは修飾の異常によるものである可能性が示唆された。
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