神経系のモデル生物として知られる線虫を用いて、Food-NaCl連合学習に対する放射線照射の影響を調べた。これまでに、神経中枢域への放射線照射が、学習などの神経中枢機能の抑制をもたらすことが知られていた。しかし、その原因については、現在でも、未だ十分な理解に至っていない。現在、中枢機能の抑制の要因として、放射線照射に伴う海馬における新生ニューロンの生成の低下が考えられているが、神経ネットワーク自身の影響についてはまったくわかっていない。そこで、新生ニューロンの影響を考慮しなくてもよい成虫段階の線虫を用いて、神経ネットワーク自身への放射線照射の影響を明らかにすることを目的とした。 ^<60>Coγ線を用いて、線虫のFood-NaCl連合学習の放射線応答を調べた。その結果、連合学習に伴うNaClへの化学走性の変化が、学習時の放射線照射においてのみ大きく変動する傾向が観察された(但し、NaClへの化学走性に影響がでない線量域。非学習時には放射線の影響はなし)。また、照射直後に化学走性が低下(連合学習の進行、又は、化学走性の攪乱を意味する)し、その後、学習が停止するなどの応答が観られた。以上の結果から、線虫のFood-NaCl連合学習の放射線応答が、(1)学習時の照射により特異的に観察されるものであること、(2)照射後の応答には2つの時間的なフェーズが存在することを初めて明らかにした。 次に、γ線の照射実験により明らかとなった線虫の連合学習の放射線応答が、神経中枢域への照射によって生じるものかどうかを確かめるために、放射線を微小域に照射することが可能な重イオンマイクロビームによる照射実験を行った。その結果、線虫の神経中枢域(咽頭近傍)への炭素イオンマイクロビームの照射効果が、線虫個体全体への炭素イオンブロードビーム照射とほぼ同程度の影響を与えることを明らかにした。
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