神経系への放射線(特に粒子線)の照射効果とその機構を明らかにすることは、粒子線による脳腫瘍治療の推進や、宇宙放射線による生物影響の正しい理解のために重要である。私は、神経系のモデル生物である線虫(C.elegans)を用いて、^<60>Coγ線の照射が線虫(C.elegans)の連合学習能を亢進することを見出した。ただし、この現象が、高線量率での照射の場合は一時的なものであり、最終的には連合学習を抑制することを明らかにした。加えて、低線量率照射の場合には、最終的な連合学習の抑制が働かず、連合学習到達度が有意に向上することを明らかにした。さらに、低線量率・高線量率の照射条件に関わらず、照射後すぐの放射線応答にgpc-1遺伝子が関与していることを明らかにした。この遺伝子は忌避行動に関連する遺伝子であることが報告されていることから、本研究で対象とした線虫の連合学習の亢進が、実際には、学習自身の亢進ではなく、忌避行動を亢進する機構の関与が示唆された。最後に、経験的な動的モデルを適用することにより、放射線照射により一時的に連合学習が、見かけ上亢進した状態から一端学習前の状態に戻り再学習する過程が、放射線照射後の複雑な応答の機構を説明可能であることを示すことができた。平成18年度に、線虫の連合学習の放射線応答現象を明らかにしたことへの評価として、平成十八年度日本放射線影響学会優秀論文発表賞を受賞した。
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