製鉄業、石油工業など多くの工場・事業場廃水は、フェノールなどの有機物質と重金属を含む重金属含有有機性廃水であり、効率的な処理に苦慮している。活性汚泥法は、良好な処理水が確保でき世界的に普及している処理法であるが、現在行われている活性汚泥法には、余剰汚泥の発生や重金属による処理効率の低下等の問題が生じている。海洋細菌と銅ゴケを用いた本システムでは、処理効率の効率化とともに、ほとんど余剰物質(廃棄物)は発生せず、重金属耐性のある海洋細菌を用いるので、重金属による処理効率の低下はほとんどない。本研究で考案するリデュース型処理システムは、上記2つの問題を解決できる可能性が非常に高い。本年度は、海洋細菌及び銅ゴケ原糸体細胞の増殖特性の検討とバイオリアクターの開発を行った。 海洋細菌は、Cobetia sp.以外に2種類のフェノール資化性菌の単離に成功し、16SrDNA解析などの同定実験の結果、Acinetobacter sp.とSerratia sp.であることがわかった。重金属(銅イオン)を含むフェノール廃水の処理実験を行ったところ、3種の海洋細菌のいずれも実用菌の約10倍以上の重金属耐性をもつことが明らかになった。特に、Acinetobacter sp.は、約1mg/Lの銅イオン存在下(実用菌の耐性の100倍)でも100mg/Lのフェノールをほぼ完全に分解処理できることがわかった。銅ゴケを用いた重金属吸収処理は、採集してきた銅ゴケの原糸体のスクリーニングを行い、銅ゴケ原糸体液体培養に成功した。1L容量の銅ゴケ用バイオリアクターを製作し、100mg/Lの銅イオンを4日で銅排水基準3mg/L以下の約1mg/Lまで吸収処理できることがわかった。本年度得られた知見は、海洋細菌と銅ゴケ原糸体細胞が、重金属含有有機性排水の処理に非常に有用であることを明らかにし、廃水の生物的処理分野に一石を投じたと思われる。
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