船舶に用いられる防汚塗料は、付着生物に対する毒性を有する防汚成分を塗料中に配合させ、塗膜表面からこれらの防汚成分が溶出することで汚損を防止する。防汚成分の中で、高い防汚活性を示す有機スズ化合物(OTCs)や重金属化合物が広く用いられてきたが、それらの生物への毒性が高いこと、中でもOTCsの問題が近年明らかとなり、世界的にも船舶塗料への使用が禁止となりつつある。しかしながら、環境中に残留した有機スズ化合物による海洋環境は、依然として続いており、OTCsの除去・分解に関する研究が、各国において精力的に行われている。OTCsの分解では、環境中において紫外線による分解が知られている。しかしながら、OTCsの分解反応は長い時間を必要とし、さらにその分解副生成物である、二置換スズ化合物および一置換スズ化合物は依然として環境毒性を有している。そこで、本研究では、酸化チタンをシリカゲルに担持させた触媒を用いた環境浄化プロセス装置を作成し、光触媒によるOTCs分解実験の検討を行った。標的のOTCsとして、トリブチルスズ(TBT)およびトリフェニルスズ(TPT)が調査された。超純水にOTCsを溶解させ、所定の濃度に調製したOTCs溶液を装置に流し、所定の期間UV照射した。GC/MS-SIM分析を行うため、サンプリング溶液に塩化ナトリウム飽和溶液、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を添加し、Et_4BNaによりエチル誘導体化を行った後、n-hexで抽出し硫酸ナトリウムで脱水した。OTCsのサロゲートおよびそれぞれの内部標準化合物(テトラブチルスズ、テトラフェニルスズ)により、OTCsの分解評価はGC/MS-SIMモニターイオンにより定量した。光照射に対する装置内OTCsの濃度の経時変化は、TBTの場合照射時間とともにTBT濃度は減少し、反応開始から24時間でほぼ定常となった。さらに反応開始から72時間では、TBTは90%消失した濃度に低下した。TBTの分解に伴うDBTおよびMBTの生成は、GC/MS-SIMモニターイオンから追跡したが確認できなかった。一方TPTでは、光照射160時間で分解反応を確認したが、槽内にTPTの残留が確認できた。半経験的分子軌道計算(Semi-empirical MOPAC)を用いてラジカル中間体の生成熱について計算した結果、OHラジカルより攻撃を受けたTBTおよびTPTから発生するラジカルの安定性によって、光触媒分解反応を決定することがわかった。
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