本研究の目的は、申請者が独自に開発した実空間差分法に基づくナノ構造体の第一原理電気伝導計算プログラムを用いて、分子やナノチューブ、フラーレン鎖などの電気伝導特性、たとえば電気伝導のコンダクタンスやナノ構造中でのホッピング・トンネル電流経路を理論的に予測し、ナノ構造の持つ新機能の探索や革新的な機能を発現するナノ物質・構造の設計を行うことである。 今年度は独自に開発したプログラムを、スーパーコンピュータで大規模計算ができるようにアルゴリズムの改良を行った。そしてこれを用いて、半無限に続く金属電極に挟まれたC_<60>フラーレン鎖の電気伝導特性の解析を行った。その結果、次のような新たな知見を得た。(1)C_<60>フラーレン1個を電極間に挟んだ場合、電気伝導のコンダクタンスは約1G_0である。(2)入射電子の散乱は、電極とフラーレンの界面で起こる。(3)C_<60>フラーレンを2個並べて電極に挟むと、フラーレンの連結部分が大きな抵抗となり、C_<60>フラーレン1個を電極間に挟んだ場合に比べてコンダクタンスが極端に小さくなる。(4)リチウム原子を内包したフラーレン2分子を電極に挟むと、リチウムイオンの正電荷により結合部分のポテンシャルが下がる。その結果、結合部分での入射電子の散乱が減りコンダクタンスが約1G_0まで回復する。(5)電極から入射した電子は、フラーレンのケージ内部を横切って流れるのではなく、原子の結合手に沿って流れる。
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