本年度は銅アセチリドナノワイヤー・ナノケーブルの電気伝導特性を活用した応用展開に向けた研究を行った。昨年度までに確立した銅アセチリド分子の自己組織的な性質を利用したナノワイヤー合成方法と真空中における熱アニーリングによる爆発性を活用したナノケーブルへの変換過程は、共に非常に簡便な手法であるため、材料としての性質を見出すことは実用化に向けて非常に重要である。 熱変換した銅アセチリドナノケーブル粉末を圧縮成型しペレット状にしたものの電気伝導特性を測定したところ酸素分子の吸脱着により、伝導度が1桁以上も変化することを見出した。酸素分子の吸脱着は室温で進行しており、銅アセチリドナノケーブルが室温において酸素センサーとして働くことを意味する。室温における吸脱着過程は一般に物理吸着と考えられ、そのような弱い相互作用で電気伝導度を変化させる機構の解明を行った。 電気伝導度の温度特性を詳細に調べることで、局在化したホールが可変領域ホッピングにより伝導していることが明らかとなり、電子スピン共鳴法を用いることで、酸素分子が局在化したホールと相互作用していることも判明した。つまり、ホッピング伝導であるため、弱い相互作用でもホッピング確率が大きく変化することができたといえる。ナノ物質の一般的な電気伝導であるホッピング伝導が、従来のバンド型伝導では不可能であった室温より低温での酸素センサーなど、新規な材料特性を見出せることを示すことができた。 本研究は、J. Am. Chem. Soc.誌に掲載され、高い評価を受けている。
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