研究代表者が合成したホウ素ナノベルトは、ボロン正20面体クラスターを構造単位とする単結晶ナノワイヤである。フラーレン等の分子性半導体との共通点もあり、既存の半導体ナノワイヤと異なる新奇物性の発現が期待できる。本研究の目的は、ナノベルトの熱起電力・電気伝導率測定システムを構築することや、ナノベルト及び金属ドープナノベルトの結晶構造や化学結合の評価を行うことにより、電気伝導機構を解明することである。最終的には、ナノベルトの化学結合制御又は形態制御による金属-半導体転移、超伝導転移の発現を目指す。 今年度はまず、蒸気拡散法によるMgドープと評価を行った。本研究開始時は、Mgの他に、酸素に加え、ナノベルトを封入した石英管から来るSiもドープされてしまったが、最近、Siの侵入を防ぐように改善した。ドープ後のナノベルトはドープ前と同じ結晶相であることがTEMによる評価で判明した。電気物性測定を現在行っている。また、ナノベルトの熱起電力・電気抵抗測定のための電極微細加工を行った。電子線リソのプロセス改善により、本研究開始前よりも正確にナノベルト両端に微細電極を加工できた。微細電極間で熱起電力を計測するために、プリアンプ及び計測ボードを購入し測定系を構築しつつある。今年度の業績は、Mgドープしていないナノベルトの電流電圧特性及びそのバックゲート電圧依存性を測定し、キャリア移動度を測定した結果、移動度の温度変化は熱活性化型であることや、大気中で光照射(遮断)時のコンダクタンスの飽和(減衰)に3日以上を要する、非常に遅い光応答であることが分かったことである。バンドギャップ内に高密度に存在する局在準位が、これらの起源であると推測される。18年度は、電極加工プロセスの改良を重ね、Mgドープ前後の試料の熱起電力測定を定量的に行い、伝導機構の詳細を解明する。
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