本研究では、水酸化銅化合物に代表される層状二次元磁性体と、導電性高分子のナノ複合体の合成に挑戦し、その磁気的・電気的な特性を明らかにすることを目的とした。無機磁性体と有機化合物の複合体の例にはこれまで、金属イオンや金属クラスターと、テトラチアフルバレン(TTF)誘導体などの結晶性の低分子化合物が用いられてきた。これらは構造を共結晶として構築する手法であり、原理的に高分子化合物に適用するのは難しい。そこで、水溶性の導電性高分子としてポリチオフェンの誘導体をもちいて、ナノ構造をもつ水酸化銅化合物と導電性高分子複合体の合成と構造評価の方法を確立することを試みた。まず、合成に時間のかかる機能性高分子を用いる前に、モデル化合物として入手の容易なポリアクリル酸ナトリウムを用いて高分子の置換を試みた。具体的には、層状水酸化銅化合物とポリマーを水溶液中で混合することで、ポリマー/無機複合体を得た。その結果、X線回折のパターンの変化が見られ、確かに高分子が置換した複合体を得ることができた。この反応は、高分子が関与する反応としては驚くほどスムーズに進行している。この結果は、実際に機能性高分子を置換する際の大きな手がかりとなると考えた。そこで、同じくカルボン酸を有する水溶性のポリチオフェンを合成した。具体的には、エステル基を有するチオフェンモノマーを酸化鉄により酸化重合させ、得られたポリマーをアルカリ条件により加水分解することで、水溶性のポリマーを得た。これを、上記のアクリル酸と同様に層状水酸化銅化合物と混合することにより複合化を試みた。しかし、条件によっては若干の複合化が得られるものの、無機物質の安定性の問題もあり、完全な複合体を得ることはできなかった。これは、ポリマーの剛直性に起因するものと考えられ、今後はこれらの知見を生かしたポリマー設計が求められることがわかった。
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