本研究では、水酸化銅化合物に代表される層状二次元磁性体と、導電性高分子のナノ複合体の合成に挑戦し、その磁気的・電気的な特性を明らかにすることを目的とした。無機磁性体と有機化合物の複合体の例にはこれまで、金属イオンや金屑クラスターと、テトラチアフルバレン(TTF)誘尊体などの結品性の低分子化合物が用いられてきた。これらは構造を共結晶として構築する手法であり、原理的に高分子化合物に適用するのは難しい。そこで、水溶性の導冠晦高分子としてポリチオフェンの誘導体をもちいて、ナノ構造をもつ水酸化銅化合物と導電性高分子複合体の合成と構造評価の方法を確立することを試みた。 前年度までに達成した、ポリアクリル酸ナトリウムを用いて高分子の置換を行った系において、さらにその物性について検討した。X線回折の結果から、ポリマーの挿入後において、層状構造に対応するd値が9.36Åから12.30Åに拡張していることが分かった。TG/DTAの測定の結果、得られたポリマー/水酸化銅の組成はCu_2(OH)_3(CH_2CHCOO)_<0.98>・1.7H_2Oと見積もられた。電子顕微鏡による観察により、ポリマー挿入後においても板状の結晶形状を保っていることが分かった。これらの結果から、ポリアクリル酸が酢酸イオンと置換して層状構造のナノ複合体を形成していることがわかった。さらにどの程度の分子量のポリマーが挿入されているかを明らかにするため、ナノ複合体から抽出したポリアクリル酸をポリアクリル酸メチルに変換し、GPCにより分子量の測定を行った。その結果、混合したポリマーの分子量よりも顕著に低分子量のものが挿入されていることがわかった。これは、分子量が大きすぎるものは挿入が起こりにくいことを示している。最後に、ナノ複合体の磁気特性をSQUIDにより検討した。その結果、置換前は層内でθ=+16.8Kの強磁性的相互作用が見られたのに対し、ポリマー挿入後はθ=・36.6Kの反強磁性的相互作用へと変化していることが明らかとなった。
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