本年度は、照射する有機分子のエネルギーや吸着している有機分子の活性度などを制御し非平衡状態を利用し、分子組み立てにおける化学反応についての検討を行う。 銅表面にコハク酸のカルボキシル基の両方がイオン化している吸着状態(Bisuccinate)に並進エネルギーを制御した二重結合を持つCH2=CHCH3分子を照射しその反応性(付加反応)について実験を行った。これは、CH2=CHCH3分子の2重結合が破れ、有機合成で言う"付加反応"をコハク酸吸着分子と起こることを期待して行ったものである。その結果、用いたエネルギー範囲(0.3eV)では付加反応は起きなかった。この原因として入射したエネルギーの多くは、吸着していた分子にフォノンエネルギーとして与えてしまい、2重結合の解離には使われなかったと考えられる。分子衝突モデルより考えると入射する分子に質量にも依るが、およそ入射エネルギー2割程度は、フォノンへ散逸することがわかった。 また一方、表面に配列吸着している有機分子の活性度を上げるためには、分子のHOMO-LUMOギャップエネルギーに近い紫外線の照射が有効である。しかし、紫外線照射によって分子の相互作用を助けるのでなく、分子自身が壊れてしまう可能性がある。そこで、アルミナ及び金表面に吸着させたリン酸基を含むフェニルリン酸の紫外線照射損傷について検討を行った。その結果、紫外線による分子の損傷は観測されなかった。一方、表面と強い化学結合を作らない系(金表面)では、局所的に紫外線により表面が加熱されたためその熱により分子の脱離が観測された。これらの結果は、分子素子開発や分子認識などにおける、吸着分子-分子の相互作用(化学反応)や、その過程の解明のための基礎的な知見であると考えられる。
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