電極と分子との接触を制御した分子接合を作製し、その電気伝導特性を評価することは分子エレクトロニクスにおける重要な課題である。本研究では、電場印加によりナノギャップ電極へ選択的に測定対象分子を吸着させること、及び作製した分子接合の電気特性評価を目的としている。固体基板上に作製したナノギャップ電極を用いた分子接合では、トランジスタ特性や温度依存性の測定が可能であるが、ギャップ間分子の状態を評価することが難しかった。我々は、直径約6nmの金ナノ粒子をオリゴチオフェン3量体の自己組織化単分子膜で修飾した複合体(Au_x/3T)を用いることで、電子顕微鏡により観察可能な分子接合を作製し、その試料構造と電気伝導特性(トランジスタ特性、温度特性:11〜300K)を直接対応づけて調べることができた。 少数Au_x/3Tで架橋した接合では、低温で明確な単一電子トンネル伝導が観測された。また、Au_x/3Tと電極との接触抵抗値は、これまでに別の手法を用いて測定された3Tのトンネル抵抗とよく一致した。このことは、本手法において分子数個程度のコンダクタンスが測定可能であることを示している。さらに、接合のコンダクタンスの温度特性から見積もられた活性化エネルギーは、金ナノ粒子のネットワーク構造に依存して変化することを見出した。これらの特性を金ナノ粒子のクーロン帯電効果を考慮することにより説明した。 本手法は広く応用が可能であり、現在、光異性化反応を示す分子(ジアリールエテン誘導体)で修飾した金ナノ粒子の電気伝導特性を測定している。その他、有機エレクトロルミネッセンス素子材料であるAlq_3を含んだ素子では、その特性がAlq_3層の配向分極に強く依存することを見出している。
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