本研究は、パルスレーザー堆積(PLD)法により薄膜二次電池を作製し、その基礎的な特性および界面におけるイオン移動の機構の解明を目的として行ったものである。本年度の成果は以下の通りである。 1.コバルト酸リチウム系に代わる正極材料として有望なマンガン酸リチウム(LiMn_2O_4)を正極として用い、新たにLiMn_2O_4/LVSO/SnO系薄膜電池を作製し、その充放電特性を明らかにした。Pt基板上に堆積されたマンガン酸リチウム薄膜は酸素雰囲気中600℃でポストアニールすることにより結晶化し、優れた充放電特性を示す。薄膜電池は3V前後で充放電し、約2μAh/cm^2の放電容量を示した。 2.薄膜電池に対して充放電を行いながら同時に顕微ラマン分光測定を行うための、充放電その場観察用チャンバーを開発した。これを用いて薄膜電池のマンガン酸リチウム正極の充放電に伴う構造変化を明らかにした。マンガン酸リチウムは50%以上のリチウム脱離によってλ-MnO_2相とLi_<0.5>Mn_2O_4相の二相共存状態になるが、PLDで作製された薄膜電池でも同様の二相共存領域が確認された。このことは、薄膜電池の正極/固体電解質界面付近のみ50%以上の充放電が行われていることを意味する。この結果から、界面でのリチウムイオン移動が電池特性に大きく影響していることが示唆された。 3.負極としてLi金属を直接蒸着し、薄膜電池の評価を行うことが出来るようになった。Li負極は電位が一定であることを利用して、薄膜電池内でのLiMn_2O_4正極の電位変化を正確に測定することが可能となった。Li負極を用いた薄膜電池では、サイクル数は少ないもののマンガン酸リチウム正極のLiの100%が充放電可能であることが分かった。
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