分子デバイスの設計を目的とした第一原理計算プログラムの開発には、非平衡状態における電子状態計算が必須となる。そこで、分子の電子状態計算において実績のある第一原理計算プログラム・ガウシアンに非平衡グリーン関数法を導入することで本研究課題の目的を実現させる。 上記プログラムの開発における今年度の実績は以下のようである。 1.分子デバイスとは電極表面に分子がトラップされた系であり、そのような系を対象とした場合、第一原理計算プログラム・ガウシアンにはいくつかの不都合な理論的枠組みがあることを見出した。 1-1.分子計算用として整備されたガウシアン標準の基底関数系は空間的に大変広がった関数系となっており、分子-電極系を計算する上では、その広がりは不必要であるばかりでなく、波動関数やグリーン関数の計算過程において非物理的な解へと収束させる危険性をはらんでいる。そこで、電極系の計算において最適な基底関数となるよう、物理的本質を変えることなく基底関数を収縮させる手順を考案整備した。 1-2.ガウシアン標準の基底関数系はフェルミレベルよりも非常に低いレベルに位置する電子も顕わに扱うため、正確ではあるがそれゆえ既存のグリーン関数法では計算時間の面で大変コストのかかるものとなってしまう。そこで、そのような低いレベルの電子を効率よく扱うアルゴリズム(Submatrix Inversion)を考案し、実行可能な計算コストに収まるプログラムを作成した。 2.ガウシアンに平衡状態のグリーン関数法を用いて電子状態を計算するスキーム(SCF計算)を実装し、アルミニウム電極、ナトリウム電極、金電極等で系のコンダクタンスを計算するプログラムを開発した。計算結果の妥当性を検討するため、最近商用化されたパッケージATK(開発コード名:TranSIESTA-C)の結果と比較し、良好な結果を得た。
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