化学反応活性化型の分子デバイス設計を目的とした第一原理計算プログラムの開発においては、分子デバイス(開放系)の電子状態計算を行うためのプログラムを、反応を追跡することのできるプログラムとカップルさせる必要があり、本研究課題では第一原理計算プログラム・ガウシアンに開放系のプログラムを組み込むことで本研究の目的を達成しようとするものである。 上記プログラム開発における今年度の実績は以下のようである。 1.昨年度においてガウシアンに導入したグリーン関数法(開放系に適した手法)プログラムの整備拡張を行った。具体的には、ガウシアン特有の広がった基底関数系を結晶計算用に効果的に縮小したものに変換し、表面グリーン関数を算出する手順を整備した。これに関しては現在もなお調整を行っている。 2.分子デバイスの設計をする上で、分子デバイスの特性を制御するという課題が急務とされている。これは本研究課題のメインテーマではないものの、本テーマと大変密接に関わっておりこの特性制御を実現する上で重要となる新たな計測手法を提案した。具体的には、架橋構造を把握・制御する目的で核磁気共鳴(NMR)を利用しようとするもので、STM-NMRという計測手法の発案を行った。この計測では、何らかの分子デバイス構造をもっナノ構造に対し電流を流し、その電流と核スピンとのカップリングによって引き起こされるNMR吸収を観測すれば、ナノ構造体の架橋構造を把握できるというものである。分子振動を計測する手法(IETS)よりもより鮮明に架橋部分の構造が見えるという利点をもっている。
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