半導体量子ドットは究極の零次元構造であり、多方面への応用が期待されている。特に、近年、量子情報素子へ向けた試みは、実現された時の産業界へのインパクトも大きく、注目を集めている。スピンを用いた量子演算を行う上で欠かせないのが、スピンと磁気モーメントを関係づけるg因子の制御である。これにより、演算素子の設計が可能になる。また、その演算(スピンのコヒーレント操作)は通常、マイクロ波を加えることで行われるが、これによる単一電子スピンの操作はきわめて難しいことが知られている。本研究では、量子ドットg因子の新たな制御手法を提案し、これによるスピンのコヒーレント操作をめざしている。結合ドットやGaN系ドットなど他の系の利用も計画している。 平成17年度は、自己形成量子ドットの面内方向に電場を印加し、その電子状態を制御することに成功した。印加電場の影響(Stark効果)とg因子変化の関係を理論計算(8バンドk.p法)により見積もり、素子の設計を行った。電子ビーム描画装置、ドライエッチング装置により、面内電場印加可能なメサ構造素子を作製した。理論計算から、実効印加電場を見積もり、電極近傍では、ショットキー障壁の影響が大きく、実行電場が非対称になることを見出した。この素子において、磁場下での単一ドット分光をおこない、ゼーマン分裂の幅から、g因子とその電場依存性を測定した。このショットキー障壁(空間電荷)の影響を受けた大きな電場が印加されたときに、g因子が変化することを見出した。g因子の変化量は数パーセントであり、自己形成ドットにおける初めてのg因子制御である。
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