研究概要 |
昨年度は,製造品質の面を対象として,広義ロスの概念を整理するとともに,それらを把握するフェーズについて研究した.そして,多段階生産システムでの不良要因探索を,改善者と生産システムの間の相互作用を通じた,仮説の立案と検証のプロセスとして捉え,特に仮説立案フェーズを支援する一つの手段として,多段階品質情報推移モデル(Multi-Stage Quality Information Model : MSQIM)と呼ぶ,探索的データ分析のフレームワークを提案し,ロジスティック回帰を用いてそれを実装した.今年度の前半では,このMSQIMを,決定木分析を用いて新たに実装することによって,昨年度のアプローチをさらに発展させた. 今年度の後半では,自律分散的な小集団活動による改善活動が戦略適合性を持つための条件をエージェントシミュレーションによって検証するフェーズに入っていった.一般に,現場オペレータから構成される小集団の業績評価基準は,局所的・短期的とならざるを得ない.ゆえに,どうしても現場オペレータは,局所的な効果が短期で得られる改善活動を重視しがちである.一方で,エンジニアは種々の改善技術を学ぶ機会を持ち,また,長期的な改善効果の評価に必要な様々な市場データをみる機会にも恵まれている.そのため,全体的で長期的な効果が得られる改善活動を重視しがちになる.そこで,現場の事実を基にしたボトムアップ的な視点の利点を残しながら,エンジニアのトップダウン的で長期的・全体的な視点との擦り合わせによって改善活動全体の戦略適合性が担保されるような制度設計について検討した.具体的には,まず手始めにコストリーダーシップ戦略を採用する生産システムを想定して,現場オペレータとエンジニアの小集団の組織設計,小集団に配分される改善予算制度,小集団における業績評価制度などの違いによって,最終的な改善効果にどのような差異が生じるかをエージェントシミュレーションによって検証した.
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