本研究者は、国内外各地に賦存する自然環境・農林水畜産物・歴史文化等の地域固有資源に焦点をあて、産学官民連携のもとでの地域振興を評価する上での適切な指標設定や、適用方法のあり方に関して調査を進めてきた。その過程で次の知見と考察を得た。 すなわち、従来の各般の地域振興施策における選定地域は、産業競争力に比較優位性ありと政策的に判断された広域的地域であって、自然環境や産物、人文的風土といった固有資源は必ずしも重視されてきたわけではない。ここに、人文・社会科学や農学等を含めた大学等研究者の知的資源を統合的に適用する余地が、なお大きく残されている。だが、産学官民コンソーシアム運営に携わるコーディネーターの階層化と成果の囲い込みが、管轄機関・活動地域・出身母体等に応じた形で進行しており、属人的コーディネート機能が飽和ないし限界に至りつつある状況も現出している。そこで、確固たるエビデンスに基づいた公的公開データベースの構造化など、信頼性の高い知識コーディネートシステムの構築が必要と考えられた。 具体的に地域特産食品の付加価値化を例に述べると、価値指標として、(1)栄養・健康機能や嗜好性といった生物学的指標、(2)生産工学に係るものとしてトレーサビリティやHACCP、JAS等の安全指標、有機JASのような安心指標、(3)LOHASやスローライフの概念といった心理学的指標、(4)地域団体商標や産地指定等の法制度的指標を挙げることができるが、現状では当該食品開発に参画する各主体の立場や意向・専門分野等に応じ、多様な制度や情報が不整合のまま並立して消費者等に混乱を招いている。逆に、これらを適切にパッケージングすることで、一層の高付加価値化が図られる可能性もあろう。 以上のような観点から、本研究者は今後、公開データベースの目的適合型統合化による地域振興支援システムの構築を視野に研究を進めていく予定である。
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