研究概要 |
急速に進展しているディジタル社会では認証技術が非常に重要となり、高いセキュリティを実現するために身体的特徴を用いた個人認証が注目されている。本研究では、利用環境に依存しないなりすまし対応型虹彩認証装置を開発するために、周辺光環境を変化させて瞳孔および虹彩領域の検出率や虹彩認識率を調査した。また、人工虹彩を用いたなりすましを排除するための生体判定指標として瞳孔収縮率を用いるため、フラッシュ光照射時の瞳孔収縮率を調査した。 1.周辺光環境変化による瞳孔・虹彩領域検出率および虹彩認識率の調査 周辺の明るさ(光環境)が変化すると瞳孔や虹彩領域を検出することが困難になる。そこで、光環境に依存しない瞳孔および虹彩検出を実現するために、光環境が変化した場合でも虹彩領域の輝度が一定値になるように輝度の正規化を導入した。取り込み虹彩画像の輝度正規化を行った状態で周辺の光環境を変化させて瞳孔および虹彩領域の検出率を調査した。光環境は蛍光灯による室内照明で明るさを1000lx,600lx,300lxの3種類とした。瞳孔・虹彩領域検出実験の結果、光環境に依存せず90%以上の検出率を得た。一方、周辺光環境を1000lxおよび600lxの2条件で虹彩認識率を調査したところ、他人受入率と本人拒否率の交点である等誤り率が光環境に関わらず10%であった。また、判定閾値を最適な値に設定することにより他人受入率を0%にすることができるが、その時の本人拒否率は20%以上と高い値になった。 2.生体判定指標としての瞳孔収縮率の調査 フラッシュ光として青、赤、白、緑の4種類のLEDを用いて瞳孔収縮率を測定した。瞳孔反応の計測は室内光環境で照度は6001xとした。瞳孔収縮率の実験を3人の被験者で行った結果、白色や青色をフラッシュ光として照射した場合、瞳孔収縮率が大きいことが明らかになった。一方、同じ光環境(照度)で瞳孔径を計測したにもかかわらず、被験者によって最大瞳孔径が異なることが明らかになった。しかし、最大瞳孔径が被験者によって異なるにも関わらず、瞳孔収縮率のばらつき具合(標準偏差)は小さい。以上の結果より、瞳孔収縮率を用いることにより生体と偽造の識別が可能であることが示唆され、瞳孔反応を効果的に誘起するために収縮率の大きい青色もしくは白色LEDをフラッシュ光として用いればよいことが示された。 来年度は虹彩認識率を向上させるために、形状判定に用いる新しい虹彩コード生成法を導入する必要がある。また、なりすまし排除のための生体判定指標を決定するために、より多くの被験者で様々な光環境下において実験を行い、瞳孔収縮率を調査する必要がある。
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