本年度は、地域の被災体験を収集し、災害像を解明する研究を行った。対象とする自然災害は、戦時中の「隠された直下型地震」であり、2306人の死者を出した1945年三河地震である。現地調査をすると、被災体験を「昔の想い出」として埋もらせている被災者が多数見受けられ、その体験は形式知として昇華されず、教訓は地元に根付いていないことが再確認できた。 そこで、特に人的・物的被害の大きかった地域・家族を中心に、1人2時間〜3時間程度のインタビューを、計10人に対して行った。インタビューはテープ起こしをしたあとに要約し、また被害のようす・教訓として伝えたいものについては日本画家の協力を仰いで1人につき約6枚〜8枚の絵画作成を行った。またこれらの成果物については、必ず被災者への確認作業を行った。 これらの作業と並行して、本インタビューを基礎データとして、災害発生後から10時間までの被災者の心理・行動パターンについて知見をまとめ、筆頭著者として査読論文1本を投稿し現在印刷中である(2006年4月発行)。また当時の災害対応従事者としての海軍航空基地の役割について分担執筆し、共著者として査読論文1本を投稿し現在印刷中である(2006年4月発行)。 さらに、この試みを地元新聞紙である中日新聞が評価してくださり、中日新聞社から「三河地震60年目の真実」という書籍の形で2005年11月に発表した。地震学2名と心理学1名の共著である。研究代表者は心理学の専門家として、インタビューの要約や明らかになった知見・教訓について執筆した(書籍頁数の約6割に相当)。現在(2006年3月)4刷1万冊を発行している。今後はこれらの成果をもとに、災害教訓を地域住民で共有するための手法開発についても行っていきたい。
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