本年度は、以下のような成果を得た。脊椎動物の嗅覚受容体(OR)多重遺伝子族の進化のダイナミクスを知るために、ヒト・マウス・ニワトリ・カエル・ゼブラフィッシュ・フグのドラフトゲノム配列から全OR遺伝子を同定し、分子進化解析を行った。その結果、以下のような新たな知見が得られた。(i)魚類と四足動物の共通祖先は少なくとも9個のOR祖先遺伝子をもっており、有顎脊椎動物のOR遺伝子は、各祖先遺伝子に由来する9つのグループに分類される。(ii)OR遺伝子の総数は、魚類は哺乳類よりもずっと少ない(約100個)が、その多様性は哺乳類よりもずっと大きい。(iii)哺乳類や鳥類のもつOR遺伝子のグループは魚類には存在しないか非常にまれであり、その逆も正しい。(iv)両生類のOR遺伝子は、哺乳類・鳥類の特徴と、魚類の特徴の両方を備えている。以上のことから、四足動物が陸上生活に適応する過程において、遺伝子重複の繰り返しによるOR遺伝子数の爆発的増加と不要なOR遺伝子の大規模な消失が起きたとする進化のシナリオを提唱した。この成果は、Preceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌の表紙に掲載されるとともに、Science誌のEditor's Choice欄でも紹介された。この成果に加え、哺乳類における比較解析を行うために、チンパンジー・マカクザル・ラット・イヌ・ウシ・オポッサムのドラフトゲノム配列から、全OR遺伝子の同定を行った。更に、OR多重遺伝子族の起源を知るために、ホヤ・ショウジョウバエ・線虫などの無脊椎動物のG蛋白質共約役型受容体を用い、脊椎動物のOR遺伝子と共に分子進化解析を行った。来年度は、これらのテーマについて更に解析を進める予定である。
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