研究概要 |
本年度は、以下のような成果を得た。昨年度までの成果を踏まえ、哺乳類における嗅覚受容体(OR)多重遺伝子族の進化のダイナミクスを知るために、カモノハシ、オポッサム、ウシ、イヌ、ラット、マガクザル、チンパンジーの全OR遺伝子をドラフトゲノム配列から同定し、知られているヒト、マウスの遺伝子セットとの比較を行った。遺伝子の系統樹をもとに、進化の過程で遺伝子数の増減がどのように起こったかを推定する統計的手法を開発した。この手法をOR遺伝子に適用した結果、以下のことが明らかになった。(1)単孔類、有袋類との分岐の後で、有胎盤類の系統でOR遺伝子数の爆発的増加が起きた。(2)哺乳類の異なる目に至るそれぞれの系統で、数百の遺伝子消失・獲得が起きた。このことは、哺乳類の異なる目の間で、OR遺伝子数の総数は類似している(約1,000)ものの、そのレパートリーは大きく異なっていることを示している。本成果は既に論文にまとめ、現在査読中である。また、ハーバード大学の郷康広研究員と共同で、マカクザル、チンパンジー、ヒトの間でのOR遺伝子の詳細な比較解析を行った。その結果、従来言われていた説とは果なって、ヒト、チンパンジー間では偽遺伝子化の傾向にほとんど差がないことが明らかになった。ただし、ヒトとチンパンジーでは、それぞれ異なる遺伝子が偽遺伝子化しており、機能遺伝子のレパートリーはかなり違っていることも明らかにした。本成果は、現在論文作成中である。更に、社団法人バイオ産業情報化コンソーシアムと共同で、ヒトOR遺伝子のデータベースを作成し、公開した。また、ペンシルバニア州立大学のMasatoshi Nei教授と共同で、嗅覚受容体およびその他の化学受容体の分子進化に関するレビューを執筆し、Journal of Human Genetics誌に掲載された。
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