ヒトのような複雑な制御機構を持つ生物における転写調節領域のゲノム規模での解析は、有効な手法が模索されている現状であり、転写因子ネットワークの解明が機能ゲノム学の重要課題となっている。近年、我々は、ヒトゲノムからの転写因子結合配列の網羅的かつ効率的な同定を可能とする改良型酵母one-hybridシステムの開発に成功し、これをエストロゲン受容体に適用することで、骨粗鬆症・心筋梗塞・乳癌および子宮癌などの多彩な疾患の発症に深い関わりを持つエストロゲン受容体(ER)の作用機所を解明することを本申請の目的とした。 平成17度は、ほぼ予定通りに研究を遂行することに成功し、ヒトゲノムから1700クローンのエストロゲン結合部位をクローニングした。そこで、平成18年度は、これらのシークエンスを解析して重複したクローンを整理し、最終的に約300ヶ所の標的結合配列を同定した。同定した結合配列を遺伝子上の位置で分類すると、上流領域、イントロン、下流領域にそれぞれ30%程度ずつ分布しており、プロモーター近傍以外の転写調節への重要性が示唆された。これまでの転写調節研究のほとんどは転写開始点上流のプロモーター領域に焦点を絞ったものである。本研究では、我々が開発したオリジナルな実験系を用いたため、これまで見逃されてきたイントロンや下流領域に存在するERターゲット配列を同定できたと考えられる。同定した標的遺伝子の中から興味深い遺伝子を100個選び、動物細胞で発現および精製したERタンパク質と各DNA配列との生化学的な結合実験を行った。そして、ERとターゲットDNA配列の結合強度のデータをもとに、新しいER結合配列の規則性を見出すことに成功した。本研究によって明らかとなった新たなターゲット遺伝子やER結合配列の新たな規則性は、エストロゲン受容体ネットワークの全貌解明に大きく貢献するものである。
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