本研究の目的は、あらゆる生物が生きてゆく上で必須な細胞内イオン環境(特に細胞内pHとNa^+濃度)の恒常性の維持の機構を、その中枢に位置するイオン輸送体(Na^+/H^+交換輸送体)の機能発現と制御、局在化という観点から出芽酵母を用いて分子レベルで明らかにすることである。平成17年度は、出芽酵母のNa^+/H^+交換輸送体Nha1pの多量体化の機能的役割とNha1pの細胞膜局在化機構について解析し、次のような研究成果を得た。 1.Nha1pの多量体化の機能的役割の解析 多くの膜輸送体は多量体を形成していることが、近年明らかにされている。しかし、その機能的意義は多くの場合不明である。今回、私は出芽酵母のNha1pが細胞内で二量体を形成していることや、この二量体化が合成直後(おそらく小胞体膜上)で起こり、細胞膜に局在化する以前に形成されていることを明らかにした。また、野生型と機能欠失変異体とのヘテロ二量体の解析により、二量体間の相互作用が輸送体の機能(イオン輸送活性)に影響を与えることを見出した。 2.Nha1pの細胞膜局在化機構の解析 輸送体が十分に機能を発揮するためには、目的の場所に適切に輸送される必要がある。しかし、膜輸送体(特に複数膜貫通タンパク質)の局在化機構には依然不明な点が多く残されている。今回、私はスフィンゴ脂質合成不能変異株においてNha1pは細胞膜に局在できず、細胞内に蓄積したことから、Nha1pが細胞膜に局在化するためにスフィンゴ脂質が必要であることを見出した。スフィンゴ脂質は脂質ラフトと呼ばれる界面活性剤に不溶な微小膜ドメインを形成することが知られている。Nha1pは、このラフト構造とも相互作用することが明らかになった。このことから、Nha1pの細胞膜への輸送が脂質ラフトとの相互作用を介して行われている可能性を得ることができたと考える。
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