本研究の目的は、あらゆる生物が生きてゆく上で必須な細胞内イオン環境(特に細胞内pHとNa^+濃度)の制御機構を、その中枢に位置するイオン輸送蛋白質(Na^+/H^+交換輸送蛋白質)のイオン輸送メカニズムや制御メカニズムを分子レベルで明らかにすることである。平成18年度は、出芽酵母のNa^+/H^+交換輸送蛋白質の最適な精製法を確立し、得られた精製蛋白質を人工リポソームに再構成した系を用いて定量的かつ高感度なイオン輸送活性の測定法の確立を目指した。 1.内膜型Na^+/H^+交換輸送蛋白質Nhx1pの精製法の確立 Na^+/H^+交換輸送蛋白質をはじめ、多くの膜蛋白質は細胞内発現量が非常に低く、界面活性剤による可溶化の違いにより精製度の高い精製標品を得ることは非常に困難であった。今回、私は8種の界面活性剤による可溶化スクリーニングを行い、Nhx1pの可溶化に最適な界面活性剤を選択した。また、特異性の高いエピトープタグ(FLAG)を用いてアフィニティー精製することにより、精製度が80%以上の精製標品を得ることに成功した。 2.人工リポソームへの再構成におけるイオン輸送活性の測定 得られた精製蛋白質を人工リポソームに再構成し、Na^+に依存したリポソームからのH^+の流出(リポソーム内のpH変化)を測定することにより、精製蛋白質Na^+とH^+の膜を介した交換輸送活性を測定した。その結果、導入したnhx1p依存的なリポソームからのH^+の流出が観察された。対して不活性変異体では、このH^+の流出は見られなかった。これにより、Nhx1pの定量的なイオン輸送活性の測定法が確立されたと考える。
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