本研究では、SBDD(標的タンパク質の立体構造を基に薬を設計すること)の代表例の一つであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)プロテアーゼをモデルタンパク質として中性子結晶構造解析を実施し、水素原子を含めた全原子立体構造を明らかにするとともに、SBDDの精度の向上を目指した基盤研究を実施することを目的とする。 平成17年度は、計画書の予定通りにHIVプロテアーゼの大量調製系を確立した。HIVプロテアーゼの遺伝子を全合成し、発現ベクターに組み込むことにより大腸菌発現系を構築した。HIVプロテアーゼは大腸菌内で封入体を形成するが、リフォールディングすることにより構造形成したHIVプロテアーゼを高収率で得ることができた。HIVプロテアーゼは、リフォールディング後に、陽イオン交換カラムおよび逆相カラムを用いて純度99.6%にまで精製した。これまでの既報の方法ではHIVプロテアーゼの分解物の混入がみられるが、本研究では新たに逆相カラムを用いることで分解物の混入がない高純度のHIVプロテアーゼを20mg得ることに成功した。 中性子構造解析のための結晶は、京都薬科大学(木曽教授)との共同研究によって阻害候補薬の提供を受けて、HIVプロテアーゼと阻害薬の複合体の結晶を作成した。その結果、格子定数および分解能の観点から考えて中性子構造解析に最適の結晶を得ることができた。現在、結晶の大型化を取り組んでおり、回折データの収集、構造精密化、構造比較および考察を行う予定である。
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